“在宅勤務+オフィス勤務” ハイブリッド型の働き方に適したオフィスの機能を考える

Withコロナの新しいワークスタイルとして、在宅勤務と従来のオフィス勤務を並行する形が定着してきました。今後、ますます増加し、定着するであろう、その“ハイブリッド型”の働き方において求められるオフィスの機能とは、どのようなものなのでしょうか。
今回は、ハイブリッド型ワークスタイルでオフィスに求められるものや機能について考察します。

ハイブリッド型の働き方でオフィスに求められるもの

“在宅勤務+オフィス勤務”のハイブリッド型の働き方に適したオフィスとはどのようなオフィスなのか、またオフィスには何が求められるのでしょうか。

●オフィスに適した業務と在宅での業務とをすみわける

業務については、出社して行うのに適した業務と、在宅で集中して行う業務とすみわけることで、業務効率化も進むと考えられます。

在宅におけるオンライン会議では、「報告」や「共有」はできますが、プロジェクトのキックオフやアイデアを持ち寄ってのブレストなどには向きません。その点、オフィスは「生の会議」「リアルコミュニケーション」「偶発的なアイデア創出」といった業務に適していると考えられます。

従来、オフィスでは隣の席の従業員に気軽に話しかけることができたのに、在宅勤務ではチャットが代替えとなり、少し話しかけづらくなりました。またオンラインだとリアルと比べて、雑談などの“明確な目的や意味のない会話”がしにくいところがあります。さらに、オンラインでは会議中の相手の表情やリアクションが見えづらいといったデメリットもありますし、グループチャットを行う際にも、順番に一人ずつ話さなければ聞き取りにくいなどの問題があり、リアルと比べて議論が活発になりにくいといえます。

このことから、これまでオフィスで行われていたざっくばらんでインフォーマルなコミュニケーションの中で生まれるものは、オンラインではなかなか実現しにくいところがあります。

一方、集中して行うソロワークについては、今後、より集中しやすい自宅、サテライトオフィス、シェアオフィスでの勤務で行うことが多くなるでしょう。ただし、在宅では家族がいてかえって集中しにくいといった問題も起こり得るため、サテライトオフィスを用意する、オフィス内に集中ブースを設けるなどの対応も必要になります。

●オフィスの重要な役割を認知する

オフィスは、業務を行う場所としての機能だけでなく、他にもさまざまな機能があります。例えば、社員の帰属意識を醸成することやブランディング、採用などのリクルートに関しては、オフィスが重要になってきます。

オフィスはただの「働く場所」ではなく、こうした会社のシンボル的な役割を担うことを認識し、有効活用していく必要があるでしょう。

オフィスはどんな場所になる?

今後、ハイブリッド型の働き方が浸透していけば、オフィスは次のような「場」になると想定されます。具体的に見ていきましょう。

●コーポレートブランディングの場

企業のウェブサイト同様に、オフィスがブランディングの場になることが考えられます。

ここで言うブランディングとは、顧客が対象ではなく、社員、協力会社、出資者などを含めたコーポレートブランディングを意味します。

コーポレートブランディングしたい相手に対しては、会社体験をしてもらうことが大切です。

テレワークではオンライン、バーチャルで会社や業務が代替されているからこそ、形あるオフィスでのリアル体験が重要になってくるのではないでしょうか。実際にオフィスに足を踏み入れ、「会社」を実感したときに、リアルでしか感じられない特別感がより際立ってくると考えられます。

企業のブランディングとして、エントランスに重点を置いたオフィス作りをしていくことも一つの方法として考えられます。なぜなら、オフィスのエントランスは外客来訪時に一番はじめに訪れる場所であり、企業を印象付けるコーポレートブランディングの重要ポイントであるためです。エントランスは最低限、ワークスペースとの間仕切りと受付電話等があれば事足りますが、企業ブランディングとしては、コーポレートアイデンティティを考慮した。次のような工夫が考えられます。

企業ブランディングを考慮したエントランスにあると良いもの

  • コーポレートカラーの使用
  • 床・壁などの素材によるコーポレートイメージの表現
  • 企業ロゴデザインの配置
  • 企業理念の掲出
  • 液晶モニターで企業情報を掲出
  • 看板商品・サービスを配置
  • グリーンの設置

また、最近では、エントランスという限られた空間ではなく、会議スペースや休憩スペース、執務スペースを見渡せる、ガラス張りでオープンなエントランスも見られます。企業全体をあえて来訪者に見せることで、企業の在り方そのものを知ってもらうことが可能です。

●プロモーションに使用する場

今後、オフィスは「仕事をする場」というより、顧客や社外に対して「プロモーションに使う場」がメインになるとも考えられます。集中作業は在宅をはじめとした場所で行うほうが効率的であることから、オフィスは社外に向けたプロモーションの場としての位置付けになるというイメージです。

オフィスそのものを、会社のシンボルとして、会社をPRする場として、会社の歴史、風土、実績、商品、イメージなどを伝えるものとします。例えば顧客や取引先とのミーティング、セミナーや講座、イベント開催の場などにすることが考えられます。こうしたプロモーションを見据えた新しいオフィス作りとして、オンラインセミナーを撮影するスタジオを併設するといったことも一案です。

実際、企業ビジョンやサービスをオフィスそのもので表現している企業はすでに存在します。

例えば、世界的に有名な民泊を取り扱う企業では、ミーティングスペースに独自の工夫をしています。同社がサービス提供している各国の都市の民泊施設をイメージした色や材質などを施しているのです。コーポレートブランディングとして、そしてプロモーションとして、社員はもちろんのこと、社外にも強いアピールとなっています。

また、会社の風土や大事にしていることをオフィスで表現している企業もあります。「アットホームで、まるで社員が家族のような会社」という方針を、オフィスで表現している例があります。初めて訪れた人にもどこか懐かしさを感じさせ、あたたかく迎え入れる雰囲気を作っています。具体的には社員が自由に働く場所を選択できる「ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」の導入、五感を刺激するグリーンや音声の設置など、親しみやすい雰囲気を、オフィストレンドを巧みに取り入れながら実現しています。

●教育の場・共通認識を醸成する場

オフィスは、社員に対して、企業理念などの共通認識を醸成するための場としても重要になってきます。

なぜなら、この理念共有や組織内の関係性の構築ができてからでないと、リモートで働く際にコミュニケーションがうまくいかなくなるといわれているためです。

オフィスには今後、仕事をするスペースよりも、社員が集まり、組織を実感できるスペースを作っていくほうが現実的と考えられます。

例えば、対面での交流を大切にするオフィスカルチャーを、新型コロナウイルス感染拡大の下でも維持するために、社交性と安全性のバランスのとれたソーシャルエリアとして実現している海外企業もあります。それは、交流イベント用に空間を作るというアイデアです。ソーシャルディスタンスが十分に取れるように考慮された広い空間、長いカウンターテーブル、手洗い用シンクの分散設置、非接触の自動販売機やコーヒーマシーンの設置、個別包装されたスナックや食べ物の提供によって衛生面も考慮。こうしたソーシャルエリアを設けることで、安心して社員同士が対面交流することが可能になります。

また、社員がオフィスとテレワークどちらも自由に選択できるようにしている日本企業もあります。オフィスに相性の良い業務はオフィスで、テレワークに相性の良い業務は在宅で、といったように、働く場所は社員の自主性にまかせるというものです。
オフィスには執務スペースのほか、バーカウンターや靴を脱いで脚を伸ばしリラックスしながら働くことができるスペースを用意することで、社員のオフィス利用の選択肢を広げています。

●社員への福利厚生を提供する場

“働きやすい会社”作り、健康経営などを背景に、福利厚生の必要性はまだまだ継続すると考えられます。おいしい食事を提供し、憩うことのできる社員食堂があると、社員は自然と集います。

今後は、社員への福利厚生を提供する場として、社員食堂やリフレッシュエリアを衛生面の配慮を施しながら、より一層充実させていくことも一つの方向性として考えられます。

●社員の拠り所となる会社のシンボル

自宅やサテライトオフィスでの業務が増加し、セントラルオフィスは縮小することが考えられますが、 会社が向かうべき方向や方針の共有をセントラルオフィスで体現し、それを従業員が享受できるようにすることで、刻々と変化していくワークプレイスや働き方の中に、軸が生まれます。

テレワークが中心となり、オンラインやバーチャルで会社や業務が代替されているからこそ、形あるオフィスが、社員の拠り所となってくるのではないでしょうか。

まとめ

今後は、ますます“在宅勤務+オフィス勤務”のハイブリッド型の働き方が定着していくものと考えられます。そうなると、従来のオフィスはそのままでは機能不足、もしくは無駄な要素も出てくるでしょう。いち早く、新しい用途を見据えたオフィス作りに着手することで、ハイブリッド型のワークスタイルの生産性向上が期待できます。