いま求められる、オフィスのバリアフリー化とは?

いま、オフィスのバリアフリー化が求められています。その背景には法改正による障害者の雇用義務化、ユニバーサルデザインのトレンドが活性化していることなどがあります。 オフィスのバリアフリー化はどのように実施していくべきでしょうか。気をつけるべき点も合わせてご紹介します。

いまなぜ、バリアフリー化が必要なのか?

近年、日本でオフィスのバリアフリー化が求められています。その主な背景には、新法や法改正があります。

●バリアフリー新法

2006年2月にハードビルド法と交通バリアフリー法に代わる法律として、新しくバリアフリー新法ができました。正式には「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」です。

この法律は、高齢者、障害者等の、自立した日常生活及び社会生活を確保することの重要性を前提に、駅や電車、道路、駐車場、公園施設、建築物の構造や設備を改善するための措置などにより、高齢者、障害者等の移動や施設の利用上の利便性及び安全性の向上の促進を図ることで、公共の福祉の増進に資することを目的とするものです。

学校、病院、劇場、集会場、展示場、百貨店、ホテル、事務所などの「特定建築物」など、バリアフリー化が義務づけられていない施設についても、積極的なバリアフリー化の取組が望ましいと規定されました。

・バリアフリー新法 一部改正

そして、2020年東京オリンピック競技大会・パラリンピック競技大会の開催を契機とした共生社会等の実現を図り、全国におけるバリアフリー化を一層推進するために総合的な措置を講じることを目的として、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が2018年5月に公布され、2018年11月1日に施行、一部の規定は2019年4月1日に施行されました。

高齢者、障害者や子育て世代など、すべての人々が安心して生活・移動できる環境を実現することを目標に、次の4項目が改正されました。

1)理念規定を設け、共生社会の実現、社会的障壁の除去を明確化。心のバリアフリーとして高齢者・障害者等に対する支援を明記。

2)公共交通事業者等によるハード・ソフト一体的な取組の推進。

3)バリアフリーの街づくりに向けた地域における取組強化として、市町村がバリアフリー方針を定めるマスタープラン制度を創設する等。

4)さらなる利用しやすさに向けた様々な施策の充実として、建築物等のバリアフリー情報の提供を新たに努力義務化等。

●障害者雇用促進法の改正

「障害者雇用促進法」が2015年に改正され、従業員が一定数以上の規模の事業主は、従業員に占める身体障害者・知的障害者の割合を「法定雇用率」以上にすることが義務付けられました。

2018年からは精神障害者(発達障害を含む)が加わり、法定雇用率が0.2%引き上げられました。現時点での民間企業の法定雇用率は2.2%となっており、従業員を45.5人以上雇用している企業は、障害者を1人以上雇用しなければなりません。

また、2015年の法改正では、募集・採用、賃金、配置、昇進などの差別の禁止や、個々の障害に対する配慮などの合理的配慮の提供の義務付けなどが規定されました。

●ユニバーサル社会実現推進法

2018年12月には、「ユニバーサル社会の実現に向けた諸施策の総合的かつ一体的な推進に関する法律」、ユニバーサル社会実現推進法が成立しました。

この法律は、全ての国民が、障害の有無、年齢等にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとるもので、障害者、高齢者等の自立した日常生活及び社会生活が確保されることの重要性に鑑み、ユニバーサル社会の実現に向けた諸施策を総合的かつ一体的に推進することを目的としています。

ユニバーサル社会の実現に向けた諸施策には、「施設、製品等を障害者、高齢者等にとって利用しやすいものとすることにより、社会的障壁を生じさせないこと」が含まれています。また留意事項として「障害者、高齢者等の自立及び社会における活動への参画を支援するために、まちづくりその他の観点を踏まえながら、その移動上又は施設の利用上の利便性及び安全性を確保すること」を掲げています。

これらを背景に、日本ではオフィスのバリアフリー化、ユニバーサル化が促進されています。

バリアフリーなオフィスとは?

では、「バリアフリーなオフィス」とは具体的にどのようなオフィスのことをいうのでしょうか?

バリアフリーオフィスとは、車椅子を利用している、歩行が困難、視力や聴力が低下している、杖などを使用しているなどの障害者や高齢者にとって利用しやすいデザインやレイアウトを施したオフィスのことを指します。

例えば、次のようなデザインやレイアウトです。

・車椅子や歩行が困難な人でも通行しやすいよう段差を極力なくし、スロープを設ける。

・車椅子での通行がスムーズになるよう、廊下や出入口の幅は90cm以上、人の往来が多い場所については、幅120cm以上にする。

・車椅子使用時でも、デスクを利用できるように、高さや幅を確保する。

・車椅子の人の視線の高さに合わせ、引出しや書庫の高さを調整する。

・エレベーターの乗車ボタンは、車椅子でも押しやすいよう、下のほうに取り付ける。

・PCやOA機器などのオフィスにある機器の配線を、床の下に入れるフリーアクセスフロアにし、車椅子でも自由に動き回れるようにしたり、高齢者でもつまずきにくくしたりする。

ユニバーサルデザインとの違い

ところで、バリアフリーだけでなく、ユニバーサル化も同時に求められていることは、先ほどお伝えしました。

そのユニバーサル化に必要なユニバーサルデザインは、バリアフリーと似て非なるものです。

バリアフリーは障害者や高齢者などの限定された人々に対して障壁を取り払うことを指しますが、ユニバーサルデザインは、年齢、人種問わず、すべての人たちに適したデザインを指します。

大きな違いは、バリアフリーが障壁を取り払う概念であるのに対し、ユニバーサルデザインは誰でも使いやすいデザインを目指し、新たな障壁を生み出さないようにするという概念であることです。

例えば、バリアフリー設計としてエントランスにスロープを設ける一方で、スムーズに歩行したいあらゆる人に対して、無駄のないデザインで上りやすい階段を設けることは、まさにユニバーサルデザインといえます。

ユニバーサルデザインは、かつて民間主導で進められていましたが、近年はバリアフリーと共に、ユニバーサルデザインを目指す方向性になっており、今後、オフィスのバリアフリーを考える際には、常にセットで考えていくことがスタンダードになっていくものと考えられます。

バリアフリー化・ユニバーサルデザイン化する上で注意すべきポイント

ここで、オフィスのバリアフリー化・ユニバーサルデザイン化をする際に、注意すべき点を取り上げます。

●設計段階からバリアフリーを考慮する

例えば、バリアフリー設計が施されていないオフィスに入居後、改めてバリアフリー化・ユニバーサルデザイン化するとなると、二度手間になってしまいます。もちろん、現在のオフィスをリニューアルしたいと考えている場合には、バリアフリー化・ユニバーサルデザイン化はおすすめですが、最もおすすめなのは、オフィスの設計段階から考慮することです。

●オフィスのブランディングや機能性も同時に実現する

「オフィスのデザインやレイアウトを決める際には、バリアフリーやユニバーサルデザインだけでなく、ブランディング、業種や業務内容に合った機能性やセキュリティなどあらゆることを同時に考慮する必要があります。これらすべてを考慮しながら、バリアフリーやユニバーサルデザイン対策も取り入れましょう。

●バリアフリーだけでなく誰もが使いやすいユニバーサルデザインも意識する

先にもお伝えしたように、バリアフリーはもちろん、ユニバーサルデザインも同時に意識することが時代に合った最先端のオフィス作りには欠かせないことです。使う人の立場に立った、従業員、来客者等、どんな人でも使いやすいオフィスであることが大切です。そうしたユニバーサルデザインにより、来客者の評価も上がるでしょう。

オフィスは今、バリアフリー化が求められています。オフィス移転やリニューアルのできるだけ早い段階で、バリアフリーとユニバーサルデザインを考慮に入れて設計することで、最先端の誰もが使いやすいオフィス作りが効率的に実現します。