オフィスの衛生管理「作業環境」で留意すべきことは?

一般的なオフィスには、労働者が安全かつ健康に仕事をすることができるように、労働安全衛生法などに、その基準が定められています。衛生管理というと、工場や医療施設などに限ったものであるイメージがありますが、一般的なオフィスにも労働者が安全かつ健康に仕事に従事できるよう、衛生管理が求められています。

そこで今回は、オフィス環境の衛生管理のポイントや、オフィスに使用できる抗菌の建材の紹介のほか、菌が感染しにくいオフィスレイアウトなどを考察します。

オフィスにおける安全衛生管理の目標

オフィスを新規開設、移転、リニューアルする際などには、安全衛生管理の観点も取り入れてオフィス作りを行う必要があります。

労働安全衛生については、昭和47年、労働者の健康と安全を守るために「労働安全衛生法」が成立し、基準が定められています。この法に基づいて制定された、「事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針」では、快適な職場環境の形成の目標について、次の項目を掲げています。

1.作業環境の管理

作業環境が、空気の汚れ、暑さ・寒さや不十分な照度等によって不適切な状態では、労働者の疲労やストレスを高めることから、空気環境についての適切な管理や、温度、照度等を労働者に適した状態に維持管理をすることが求められます。

2.作業方法の改善

不自然な姿勢での作業や大きな筋力を必要とする作業等について、労働者の心身の負担が軽減されるよう作業方法の改善を図ることが求められます。

3.労働者の心身の疲労の回復を図るための施設・設備の設置・整備

労働により生ずる心身の疲労については、できるだけ速やかにその回復を図る必要があるため、休憩室等の心身の疲労の回復を図るための施設の設置・整備を図ることが求められます。

4.その他の施設・設備の維持管理

洗面所、トイレ等の労働者の職場生活において必要となる施設・設備については、清潔で使いやすい状態となるよう維持管理されていることが求められます。

オフィスの衛生管理のために留意すべきことは?

では、これらのオフィスの安全衛生管理の目標のうち、「1.作業環境の管理」「2.作業方法の改善」「3.労働者の心身の疲労の回復を図るための施設・設備の設置・整備」を達成するためには、具体的にどのような点に留意し、オフィスを作っていけば良いか、それぞれ具体的に見ていきましょう。

1.作業環境の管理

●空気環境

室内で仕事をする際には、空気環境が重要になります。空調や機械換気設備などで、粉じんや一酸化炭素・二酸化炭素、ホルムアルデヒドなどの重量や含有率をしっかり管理する必要があります。粉じんはアレルギーや肺がん、一酸化炭素・二酸化炭素は頭痛やめまい、吐き気、ホルムアルデヒドはじんましんや湿疹、倦怠感などを引き起こすリスクがあるといわれます。
また、気流についても重要で、室内に流入する空気が特定の労働者に直接継続的に及ばないようにすることが、労働者の健康のために必要です。
また労働安全衛生法に基づき定められている「事務所衛生基準規則」では、機械による換気のための設備点検を定期的に行う必要があるほか、室内空気の汚染防止のために空気調和設備の管理も必要である旨が定められています。自社で対応がむずかしい場合には、大家さんや管理会社に依頼することが求められます。

●温熱条件

温度・湿度などの温熱条件は、労働の効率に大きく影響します。室温については熱中症や低体温症などを引き起こす恐れがあります。湿度についてはカビやダニの発生、風邪やインフルエンザなどにかかりやすくなるなどの恐れがあります。
このことから、温度・湿度は一年を通じて季節に応じ、適切な状態に保つことが欠かせません。空調により、室温が10度以下の場合は、暖房するなど適切な温度調節をするほか、冷房する場合は室温が外気温より著しく低くならないように温度を調節することが求められます。

●視環境

照度も、労働者の作業効率に影響します。照明が十分でないと、目の疲れや視力への影響などの恐れがあります。作業レベルに応じた照度の照明を取り付けるほか、まぶしさを感じさせない工夫なども必要です。

●音環境

音環境については、騒音についての配慮が必要です。外部からの騒音を遮蔽するための壁にするほか、オフィス内のOA機器も低騒音タイプを採用するなどして、低騒音化を図ることが求められます。

●作業空間等

作業スペース、例えばデスク周りや通路などが狭すぎる場合、狭い空間に複数名が密集することになり、空気が汚れやすくなる、衝突事故が起きやすくなるなどの恐れがあります。 また、労働安全衛生法や労働安全衛生法施行令の規定に基づいて定められた「労働安全衛生規則」では、労働者一人当たりの作業空間について、設備の占める容積と床面から4メートルを超える高さにある空間を除き、10立方メートル以上を確保しなければならない(労働安全衛生規則 第六百条)とされています。

(参考)
労働安全衛生規則 第六百条

2.「作業方法の改善」の留意点

作業環境だけでなく、労働者の心身の負担が軽減されるように、作業方法の改善を図る必要もあります。

特に私たち日本人が1日のうちに座っている時間は、世界で一番長いという研究結果もあります。豪シドニー大学2011年の調査によると、日本は「総座位時間」が世界で最も長く、平均300分/日に対して、日本は420分/日と2時間も上回る結果でした。

また同大学の2012年の研究結果では、1日11時間以上座る人の総死亡リスクは、1日4時間未満の人と比べて40%ほど高くなると報告されています。

このことからも、長時間同じ姿勢であることは、労働者の健康を損ねると考えられます。東京都と東京商工会議所の資料では、「職場で気軽にできるスポーツプログラム(オフィスdeエクササイズ)」として、背伸びをする、ふくらはぎのストレッチをするなどのオフィスでも簡単にできるエクササイズが紹介されており、これらを職場で推奨することも必要と言えそうです。

(参考)
オフィスdeエクササイズ ~働き盛り世代の運動習慣定着化ガイドブック~

また昇降デスクを導入し、立ちながらのデスクワークに切り替えるなどして、長時間座り続けるのを防ぐことも可能です。主要メーカーの昇降デスクは各社によって特徴が異なるため、自社に合ったものを選ぶことがポイントです。

3.「労働者の心身の疲労の回復を図るための施設・設備の設置・整備」の留意点

労働者の心身の疲労の回復を図るために必要となる休憩室などの施設、設備の中でも、近年多くの企業が導入しているのがリフレッシュルームやリフレッシュスペースです。

リフレッシュルームを新たに事務所の中で取り入れようとすると、大きなレイアウト変更の必要性がありますが、執務室の一角にリフレッシュスペースを設けることでも対応できます。

小スペースでも置ける、リラックスして作業や打ち合わせができるような什器、例えば身体にフィットするリラックスソファや背もたれのあるフレームなどを置くだけでもリフレッシュスペースとなります。

このように、大規模な工事ができなくても、少しの工夫でオフィス内を改善できることがあります。

抗菌の建材を利用したオフィス作り

これからの時代、より衛生管理を考慮したオフィスづくりをしたいものです。その際、抗菌の建材を取り入れるという方法も有効と考えられます。
例えば、抗菌の建材をフロアや壁、各部に採用したり、オフィス内に抗ウイルスコーティングを施したり、抗菌機能のある塗装やファブリックが施された家具を導入することも一つの方法です。

●銅繊維シート

付着したウイルスの不活性化を早める「銅繊維シート」が開発されています。これは、半永久的な殺菌効果があるとされるもので、オフィス内ではスイッチパネルのカバーやエレベーターのボタン、ドアノブを覆うカバーなどに使用することでウイルス感染予防策になることが期待されています。

●抗ウイルスコーティング

インフルエンザウイルスなどに効果のある「抗ウイルスコーティング」を、オフィスのデスクや椅子、壁、ドアノブ、扉、ロッカー、スイッチパネル、サッシの鍵まわり、手すり、給湯室やトイレなどの人の手に触れるところに、くまなく施す方法もあります。抗ウイルスだけでなく、抗菌、汚臭、防カビ、防汚、有害物質除去の効果が期待できるものもあります。

●抗ウイルス・抗菌性能を持つ壁面材

メラミン樹脂やフェノール樹脂を使用した化粧板に抗ウイルス・抗菌性能を施した壁面材も開発されています。オフィスの壁、フロア、家具、什器などに使用することで、抗ウイルス・抗菌対策となります。

●抗菌対応の塗装・ファブリックを使ったオフィス家具

オフィスのチェアやテーブルなどの木製品に施すポリウレタン塗装のトップコートに、高機能抗菌剤を配合する抗菌対応の塗装を施すこともできます。またオフィス用家具のファブリックに、抗菌や防カビ、防臭、防汚、防水、静電防止など、安全性の高い布を使用したものもあります。こうした家具を特注で製作するのも一つの方法です。

菌に感染しにくいオフィスレイアウト

最近では、従業員が互いに安心安全に仕事ができる環境づくりとして、「菌に感染しにくい」という視点を考慮することも求められています。
厚生労働省は感染症対策として「換気の悪い密閉空間」「多数が集まる密集場所」「間近で会話や発生をする密接場面」の3つの「密」を避けることを呼びかけています。これをもとに、オフィスの感染対策を考えてみましょう。

(参考)
新型コロナウイルス感染症について

1.スペースは広くとり、密閉・密集空間を避ける

密閉空間、密集場所を避けるためには、執務室や会議室、通路などはできるだけ広くとることが大前提といえます。執務室のレイアウトも、広いスペースにデスクを一定距離離して設置する、会議室の椅子も一定距離を離して設置するなど、従業員同士が密接しないような工夫が考えられます。

2.換気を良くする空間づくりを

換気が悪い環境を避けるために、通気性の良い空間づくりを心がけ、窓の設置、窓を大きく作る、換気設備を必要な場所に整えるといったことも必要になりそうです。

3.手洗いや消毒がしやすい設備を整える

手洗いや消毒をこまめにできるように、執務室などの近くに手洗い場や消毒液を設置するなどすることも必要になるでしょう。

4.外部の人が容易に入室できない管理体制

すでにオフィスセキュリティの観点から取り入れているオフィスも多いですが、特に従業員が多く滞在するオフィスの執務室などでは、外部の人が容易に入室できないセキュリティを強化したオフィスにすることも、感染対策になると考えられます。

昨今はオフィスの衛生管理の強化が求められていますが、将来的にも、従業員の安全や健康を守るために、衛生管理や感染予防の観点からオフィスづくりを行うことは重要になってくるでしょう。