フリーアドレスとは?~新しい時代のオフィスにおける可能性~

オフィスのフリーアドレスは、働き方改革を支える一つのスタイルとして浸透し、定着しています。そんな中、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、新しいオフィスの在り方が求められており、フリーアドレスについてもどのように活用するかを再考する必要が出てきています。
そこで今回は、フリーアドレスの概要から歴史、事例を確認し、今後の新しい時代のオフィスにおける可能性を探ります。

フリーアドレスとは

フリーアドレスとは、従来のように社員それぞれが持つ個人専用のデスクはなく、フロアに長机や椅子が設置されているところに、自由に着席場所を選んで仕事をするスタイルです。ソファなどがあるスペースが用意されていることもあり、まるで一つのカフェのようなイメージです。このフリーアドレスは、ノートPCと無線LAN、もしくはタブレット端末やスマートフォンなどを使用するモバイルワークをメインとした職場で使用されています。
ノートPCを社員に貸与したり、すべてのフロアにWi-Fiを導入したりして、どのエリアでも仕事ができるよう工夫をしているオフィスもあります。

●フリーアドレスのメリットデメリット

メリット

  • 部署や部門間を超えた社内コミュニケーションが活性化する
  • 業務の効率化につながる
  • プロジェクト毎のチームの編成がしやすい
  • 省スペース化(スペースコスト削減)
  • 紙資料の電子化によりコストが削減できる
  • テレワークとの相性が良い
  • 私物をデスク周りに置けないためオフィスが整理整頓されやすい

デメリット

  • 執務エリアがコミュニケーションエリアとなり、一人で集中する作業がしづらい
  • 個々の作業の進行度合いが把握しにくくなる
  • 全体のマネジメントが難しい
  • 部署や部門内の報告などコミュニケーションが取りにくく部署内の一体感などが希薄になる
  • 個々の荷物置き場が少ない
  • システムをモバイルワーク化する必要があるため初期導入コストがかかる
  • 業種・職種により向き不向きがある

これまでのフリーアドレスをめぐる動き

フリーアドレスは、これまでさまざまな進化を遂げてきました。その変遷の過程を振り返ってみます。

●フリーアドレスの誕生から流行まで

意外に思われる方も多いかもしれませんが、フリーアドレスは、日本で生まれました。1987年に、清水建設の技術研究所で試験的に導入されたのが最初です。90年代になると、各企業がフリーアドレスを導入しはじめ、2000年代にかけて浸透しました。しかし、その主目的はオフィスのスペースコスト削減でした。つまりデスクを共有化したり、外回りの営業担当者などによる空席の回転率を上げたりすることで、コスト削減を狙ったのです。

●「フリーアドレス1.0」から「フリーアドレス2.0」へ

しかし、フリーアドレスは、従来のオフィスに導入する際に、大きな障壁が目立っていました。それは、ペーパーレス化やモバイル化が進んでいないことが原因でした。デスク上の固定電話やコンピュータ、紙文書、ワゴンなどの存在が、物理的に邪魔していたのです。

しかし、やがてテクノロジーの進化により、固定電話がモバイルフォン化し、持ち運びできるノートPCやタブレットなどが登場したことや、ペーパーレス化が進んでいったことで、物理的な障壁が減ってきました。

初期のフリーアドレスを1.0と呼んでいますが、テクノロジーの進化によって物理的な障壁が減ったことで、新たな考え方の下、フリーアドレスが再認識されました。それがフリーアドレス2.0です。

フリーアドレス2.0では、1.0と比べて導入目的が変化しました。コスト削減ではなく、「働き方改革」としての新しい働き方として導入するケースが増えてきました。企業側は生産性を上げるために柔軟な働き方を推進し、従業員はそれぞれ自分が働きやすいスタイルで働きたいといった双方の意図が合致したのです。このことで、これまで会社の方針に従うしかなかった従業員の意識が変わり、自ら積極的に自由な働き方をするという意識でフリーアドレスに取り組むようになりました。

さらに、フリーアドレスは業務効率アップやコミュニケーションの活性化などの目的も見据えられるようになり、一つの生産性の高いオフィスレイアウトとして定着しています。

フリーアドレス失敗例と成功例からみる向き不向き

フリーアドレスは、誕生した初期の頃から現在に至るまでに、さまざまな企業に導入されてきました。その中には、失敗例も成功例もありました。具体的にどのようなケースがあるのか見ていきましょう。

●失敗例

  • 導入コストがかかりすぎて費用対コストが見合わなかった。
  • 固定席ではないため、従業員がどこにいるのかわからず、探すのに苦労する。
  • 個人で集中して行う作業がしづらい。
  • コスト削減という経営本位の目的が主だったため、従業員の心からの同意が得られず、フリーアドレスに対する意識が消極的で、結局、席が固定化されてしまった。

●成功例

  • 部署・部門を超えたコミュニケーションが活性化した。
  • 目的や状況に合わせて臨機応変に働く場所を選べることで業務効率化が実現した。
  • グループワークやチームコミュニケーション、情報共有がスムーズにいくため、生産性が向上した。
  • 省スペースで多くの従業員が働けるため、オフィス面積が削減され、コスト削減につながった。

業務の種類や職種、従業員数などによっても失敗、成功は変わります。
これらの例は、フリーアドレス導入のヒントになります。

フリーアドレスに向いている業種・部門と向いていない業種・部門の違い

フリーアドレスの導入・成功の前提条件として、「ペーパーレス化」「固定電話を使わない」ということが挙げられますが、それ以外に、業種や部門など、働き方の違いによる向き不向きもあります。

例えば、経理部門などの管理部門で、専門的かつ少人数の部署の業務や、高いセキュリティが求められる重要なデータを取り扱うことを中心とした業務などの場合、固定席の方が適しており、フリーアドレスには不向きです。
また、業種としては、どうしても業務に利用する道具が多かったり、物理的な作業を伴うような業種の場合は、フリーアドレス化は難しい面があります。

一方で、ペーパーレス化、IT化が進んでおり、固定電話も使う必要がなく、セキュリティ問題がネックとならないような部門の場合は、フリーアドレスに向いています。業種としては、やはり、PCのみで業務を進められるソフトウェア開発等のIT企業はフリーアドレス化を行いやすいといえるでしょう。

さらに、部署を超えた社員コミュニケーションの活性化により、新たなアイデアの創出や価値の創造を歓迎するような企業、働き方改革を積極的に実施していきたい企業には向いているといえます。

会社として、経営者がこうした向き・不向きを理解した上でフリーアドレスを推進していかなければ、導入をしても形だけになってしまうと考えられます。

フリーアドレスを導入する際の流れや注意点

ここで、フリーアドレスを導入し、成功させるための流れと注意点をまとめます。

1.在席率調査など、導入可否の判断・決定

まずはフリーアドレスを導入できるかどうかの判断材料として、在席率を調査します。在席率が高い場合は、フリーアドレスを実施してもメリットが見込めないため、検討する必要があります。さらに、実際の運用を想定し、不具合が出ないかどうかを点検していきます。

2.従業員への周知・合意形成

導入できると判断した場合、経営側が一方的に進めていくのではなく、従業員に周知し、早くから合意形成を行っておくことが重要です。従業員としては、「自分の座席がなくなる」という不安は誰もが持ちあわせています。会社、従業員それぞれにメリットのある目的を示し、具体的にどのように運用していくのかを明確に示す機会を増やすことが大切です。

3.レイアウト設計

オフィスレイアウトを実施していきます。全フロアフリーアドレスなのか、それとも一部なのかによっても必要な座席数やデスク、ロッカーなどが変わってきます。現場の運用を見据えたレイアウト設計が重要になります。

4.デスクやロッカー、PCやモニターの手配

レイアウトが決定すれば、自然と必要な物品や数量が分かってきます。それをもとに手配を進めます。

5.運用ルールの決定

実際に運用を始める前に、必ず明確に運用ルールを決めておき、従業員へ周知しておくことが成功のためにも欠かせません。例えば、「必ず前日とは異なる座席を利用する」「退勤時はPCや私物を個人用ロッカーに入れ、デスクには何も残さない」など、ルールを明確に定めておきます。

新しいワークスタイル~ABWとは

近年、新しいオフィスワークスタイルとして「ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」がフリーアドレスと比較されることが多くなりました。そこで、フリーアドレスとの違いやメリットなどをご紹介します。

●ABWとは

ABWは、オランダのコンサルティング企業が生み出した働き方で、従業員一人ひとりが自分の仕事の内容に合った環境を自由に選んで働くスタイルです。特定の座席を設けず、その都度、仕事の内容に応じて、どこで働くのが最適かを従業員自身が判断し、選びます。
例えば、一人で集中して資料を仕上げる必要がある場合は、個人集中席で業務を行います。一方、2~3人の従業員同士の打ち合わせでは、ソファとテーブルが配された簡易的なミーティングスペースを選びます。これにより、常に一人一人、一つ一つの業務のベストパフォーマンスが図られるオフィスが実現します。

●フリーアドレスとABWの違い

ABWは、固定席ではないという点では、フリーアドレスと共通する部分もあります。しかし、根本的な考え方が異なります。フリーアドレスはどちらかといえばスペースや座席などの物理的な側面で業務効率化を目指しますが、ABWは、従業員の働き方や行動面に重きが置かれています。どちらも働き方改革の一手段ではありますが、フリーアドレスはオフィスレイアウトの一種で、ABWは働き方の一種といえるのかもしれません。

●ABWの優れている点

ABWの優れている点は、従業員のパフォーマンスに重きが置かれていることから、生産性向上が期待できるところにあります。さらに、従業員が自由に選択できるというところから、より満足度が高くなり、ワークライフバランスの実現や働き方改革の推進にも合致します。従来の「あなたはこの席でこのようにして働いてください」ではなく、「あなたが最も働きやすく、成果を出せる場所と方法で自由に働いてください」と従業員に任せることで、従業員の積極的な行動と意欲を刺激することにもつながります。

コロナ発生~新しい時代の「フリーアドレス」とは

新型コロナウイルス感染拡大を受け、オフィスにおけるフリーアドレスは、また違った観点でとらえる必要が出てきました。テレワークが推進される中で、出社する社員数が減り、オフィスのスペースが余るようになったことで、「スペースの有効活用」といった観点から改めて注目を集めています。

手洗い・消毒・換気などの基本的な予防策ができていれば、フリーアドレスは何の問題もないといわれています。さらに、下記の対策をすれば、より安心してフリーアドレスを活用することができるでしょう。

●ホテリング(出社予約)

「ホテリング」、つまり出社予約をして、限られた人数が限られた時間に決まったフロアを利用する方法が考えられます。このホテリングという方法であれば、誰がどのスペースをいつ利用したという記録が残り、管理側にとっても有意義です。
もちろん、接触したドアノブやデスク、椅子など、執務室内のあらゆる場所の、拭き取りなどの消毒の徹底も必要になります。

●出社と在宅勤務のシフト制にする

また、在宅勤務との併用も有効です。つまり、出社と在宅勤務のシフト制にするという考え方です。これにより、出社人数を制限でき、オフィス利用スペースも縮小できます。

●利用時間と利用者を特定できる仕組み作り

この新型コロナの感染拡大を受け、初めてフリーアドレスを採用した企業もあります。これまで固定席制だった企業は、スペースの有効活用という意味で、ソーシャルディスタンスを保てるフリーアドレスは、かえって感染予防対策となっています。
しかし、問題視されているのは、感染者が発生した場合、感染者との濃厚接触者の把握が困難になるという点です。そこでフリーアドレスを採用すると同時に、いつ誰がどの座席を利用したのかを記録する仕組みを作るという対策も出てきています。例えば、着席時に、デスクごとに配置されているQRコードをスマートフォンで読み取り、座席番号や日時がシステムに登録されるという方法です。これにより、感染者が発生すれば、着席データを参照し、濃厚接触の可能性を追うことができます。

まとめ

コロナ以前、フリーアドレスは、2.0として新たな可能性が広がっていましたが、コロナ感染拡大を受け、さらなる見直しを余儀なくされています。新しいフリーアドレスのベストな形が、今まさに模索されているのです。これは、自社にとって最適なスタイルを見つけるチャンスでもあります。感染防止には十分配慮しながら、ぜひ積極的に検討していきましょう。